Up(細胞性粘菌の培養と観察)
細胞性粘菌の長期保存
シリカゲルストック
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凍結乾燥
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アメーバ状態での保存
特別な装置無しに手軽にできる。胞子の状態が良いと長期間保存でき、20 年以上経って今でも生きているものもある。
準備
- オートクレーブ可能な蓋の付いた耐熱ガラス製バイアル瓶(例えば外径 15 x 高さ 45 mm)を用意する。
- バイアル瓶の蓋をオートクレーブ滅菌し、乾かしておく。
- 小型のガラス製バイアル瓶(例えば外径 15 x 高さ 45 mm)に小粒子のシリカゲルを 1/4〜1/2 ほど入れ、180 C, 1.5 時間くらい乾熱滅菌する。
- ある程度冷めたらきっちり蓋をし、乾燥剤を入れた容器にまとめて入れて冷蔵庫で保存する。
- ドライミルク(non-fat dry milk)の 0.5% 溶液を作り(胞子の保護のため)(e)、オートクレーブ滅菌したあと冷蔵庫で保存する。
ストックの作成
- 新しく作った細胞性粘菌のストックプレート(a)をしばらく冷蔵庫に入れて冷やす(b)。
- 滅菌した白金耳で子実体の胞子塊を集め、少量のドライミルク溶液にとる(c)。何度も繰り返してできるだけたくさんの胞子を集める。
- このドライミルク溶液を氷で冷やし、冷やしておいたバイアル瓶中のシリカゲルに滴下する(d)。
- 蓋をしたあとバイアル瓶を振って中身を均一にし、乾燥剤を入れた容器に入れて冷蔵保存する。
- (a) 古くなったストックプレートや、まだ胞子が十分成熟していない子実体から採った胞子は、長持ちしない。
Axenic 株の細胞にバクテリアを食わさずにストックを作りたいときは、単独培養した細胞を塩溶液で1回洗ったあと少量の塩溶液に懸濁し、塩溶液に溶かした寒天培地に細い線状にまいて子実体を作らせる。寒天培地を作るときの塩溶液には弱酸性のバッファーを用い、上から光があたるようにしておくと、移動体があまり移動せずに子実体を作りやすい。
- (b) 何でも冷やしているのは、乾燥したシリカゲルが水を吸うとき発熱するので、できるだけ温度を低く保つため。
- (c) プレートを下向きにして実験机に強くたたきつけると、胞子塊がシャーレの蓋に落ちるので、そこに塩溶液などを流し込んで胞子を集めるという方法もある。この場合は、胞子の懸濁液をかなり強い遠心で沈澱させて濃縮させる必要がある。
- (d) 1 g のシリカゲルに約 0.2 mL くらいまでは水溶液を入れて良いとされている。
- (e) 比較したことはないが、たぶん血清でも有効だと思う。
ストックの作成 ―― 簡便法
- 滅菌した白金耳で子実体を掻き集め、バイアル瓶中のシリカゲルに突っ込んで掻き回す。シリカゲル全体がうっすらと胞子の色に染まるくらいまでこれを繰り返す。
- 蓋をしたあとバイアル瓶を振って中身を均一にし、乾燥剤を入れた容器に入れて冷蔵保存する。
- このような幾分乱暴な方法でもかなり長持ちするストックができる。
- 胞子が無色の種では入れるべき量を色で判断できないが、極端に少なくなければなんとかなる。
戻し方
ニ員培養の場合、バクテリアを拡げたプレートにシリカゲル粒子を適当にばら撒く。あるいはバクテリアの懸濁液にシリカゲルを数粒入れ、良く撹拌したあとこのバクテリア懸濁液を栄養培地に拡げる(普通この方が早く細胞を回収できる)。単独培養なら、少量のシリカゲルの粒を直接培地に流し込む。状態の良いストックなら3日程度で細胞の増殖が確認できるが、1週間以上かかることもある。子実体の形態を確認したら、新しい栄養培地でストックプレートを作る。
凍結乾燥は、長期間保存の最も確実な方法とされているが、そのための設備が要る。方法は途中までシリカゲルの場合とほぼ同様で、濃いめのドライミルクに懸濁した胞子を凍結乾燥用のガラスチューブに少量入れたものを急速凍結し、真空に引いて十分乾燥させたのち真空ポンプから遮断してガラスを封じる。真空度のチェックをして、冷蔵保存。
胞子を作らない変異株は上記の方法で保存できないが、動物の培養細胞と同様の方法で細胞性粘菌のアメーバ状の細胞も保存できる。少なくとも -80 C まで冷えるフリーザが必要。液体窒素が使えればなお良い。
以下には単独培養の細胞のストックを作る方法と戻し方の例を示す。ニ員培養の場合は、バクテリアの色が薄くなり始めたあたりを白金耳で掻き採って保護剤に懸濁し、あとは同様にすれば良い。
準備
ストックの作成
- 培養液 10 mL を滅菌した遠心管に入れ、1500 rpm、1分遠心して細胞を沈澱させる。
- 沈澱した細胞に 0.5〜1.0 mL の新鮮な培地を加えて撹拌する。細胞密度は約 108 cells/mL。
- 血清 0.5 mL をエッペンドルフチューブにとり、DMSO 111 μL をこれに加えて撹拌する。
- これに細胞懸濁液を 0.5 mL 加え、静かに混ぜ合わせる。
- エッペンドルフチューブに 100〜200 μL ずつ分注する。
- これを細胞凍結用の容器(BICELL など(d))に入れ、-80 C の冷凍庫に数時間以上置く。
- チューブをラックなどに移し、-80 C で保存する(e)。
- (a) 細胞の保護剤として、普通は血清(牛などの動物の血清)か DMSO のどちらかを使う。両方をならべてテストしたとき、どちらか片方でうまくいかないことがあったので、両方を入れることにしている。DMSO の終濃度は 10%。血清は 50% 弱。
- (b) アンプルを開けてからは、きっちり蓋のできる滅菌済みのバイアル瓶に保存する。空気中の水分を吸いやすく、また古くなったものは細胞に良くないと言われているので、蓋を開けている時間を最小限にする方が良い。
- (c) ニ員培養の場合でも単独培養用の液体培地があればそのまま使える。作るならニ員培養用の栄養培地の組成から寒天を除いたものを用意すれば良い。
- (d) BICELL(日本フリーザー製、6個 18000 円)は内径 5 cm 高さ 7 cm ほどの容器で、内部の温度が適度な速さで下がる。冷蔵庫で冷やしたものを使う。発泡スチロールで自作できる。プログラムフリーザが使えればそれが一番良いはず。
- (e) 長期には液体窒素中で保存するのが確実だが、-80 C でもかなり保存できる。
- フリーザからチューブを出し、室温に置く。
- 時々静かに揺り動かしてほとんど解けたら、冷やした新鮮な培地を 1 mL くらいまで足し、わずかに撹拌し(一度チューブを逆さまにする程度)、小型遠心機で 4000 rpm、2秒ほど遠心して細胞をゆるく沈澱させる。
- 上澄みを注意深く吸引し、少量の培地に浮遊させて新鮮な液体培地の入ったシャーレに加える。
細胞数はあまり多くない方が良い。
- 常温では高濃度の DMSO が細胞に悪い影響を与えるので、できるだけ DMSO を除くのが良いが、細胞は、凍結融解によってある程度ダメージを受けていると考えられるので、できるだけ丁寧に扱うのが良いと思われる。
- DMSO をさらに除く方が良いと思われる場合は、細胞をしばらく培地に浮遊させてから遠心で上澄を除くという操作を加える。
- 普通はこのように1本のチューブを使いきるが、凍ったストックが絶対溶けないような保冷容器にチューブを入れてクリーンベンチまで持ってきて、滅菌した細いスパチュラなどで凍ったストックの表面を少し掻き取ってシャーレ中の新鮮な栄養培地に入れ(ニ員培養の場合は、バクテリアの懸濁液に加えたものを増殖用の寒天培地上に拡げ)、チューブが溶けないうちにフリーザなどに戻すことで1本のチューブから何度でも細胞を戻すことができる。このようにすると非常にたくさんのチューブにストックを分注する手間が省ける。また、ストックの量を培地に比べてずっと少なくすれば DMSO は十分薄まるので、遠心などの操作が不要になる。保冷容器は発泡スチロールで簡単に作ることができる。酵素などを一時的にベンチで使うための容器も使える。