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8. まとめ

細胞性粘菌の発生過程は,環境が栄養増殖に不適当になり,また有性生殖をおこなう状況でないときに,多数の細胞がまとまって胞子をつくる過程と考えられる.変化の多い環境でこれが間違いなくおこるために,細胞が集合して一種の内部環境をつくり,そこでcAMPを中心とする細胞外因子による相互作用で胞子分化を制御するとともに,一部の細胞に対して胞子分化を抑制し,それらの細胞が形態形成運動をリードするだけでなく子実体では胞子を支えることに専念するような仕組みを,細胞性粘菌は作りだしたと言えるだろう.このような比較的単純な発生過程の中にも,複雑な形態に進化した生物の発生の機構が凝縮しているとの考えが細胞性粘菌の発生を研究する一つの大きな動機になっているが,純粋な現象との比較を必要とする理論分野の注目をも集め,多くの研究がおこなわれてきた(総説,MacWilliams and Bonner, 1979; Nanjundiah and Saran, 1992; Nanjundiah, 1997).一方では,細胞性粘菌と複雑な生物の発生の機構を対比できるのは概念的な範囲にとどまり,実際の機構には共通点は少ないだろうとの予想もあったが,先に取り上げた7回膜貫通型レセプター/GSK3/β-catenin経路やSTATの例のように,後生動物の発生機構と共通のものも見つかってきており,今後さらに多くの共通性が姿を現すだろう.構造的にも,stalk sheathを分泌する細胞や集合体表面の上皮組織のような構造に動物組織との類似性があることも以前から指摘されていた.例えば体節や体軸の決定機構の由来というような発生と進化の大きな問題の解明に,細胞性粘菌の発生の研究が果たす役割は大きいに違いない.


Rob Kay,Jeff Williams,Larry Blanton, Vidyanand Nanjundiahの各博士には,さまざまなディスカッションをしていただきました.J. Williams博士には図1Bの原稿も送っていただきました.ここに感謝します.


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前田靖男 編(2000) 「モデル生物:細胞性粘菌」 アイピーシー ( 出版社による本の紹介)
第6章第2節 井上 敬 「分化パターンの調節と形態形成」 (一部改訂)
- 出版社および編者の承諾を得て掲載 -

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