実験形態学的手法と細胞の標識

D. discoideumを発見したKenneth Raperは,この種が形態形成の研究に非 常に適していることを直ちに見抜き,早くからいくつもの重要な研究をおこなった.最も有名な1940年の論文では,極性,予定運命地図,apical dominance,調節,走光性,など,Dictyosteliumの発生における主要な問題をとりあげ,多くの重要な発見をしているが,そこで主に使われているのは,生体染色による細胞の標識,移植によるキメラの作成,顕微手術による組織の除去や付加などの実験形態学的手法であった (Raper, 1940).

一方,John Bonnerはこれらの手法に加え,組織化学を駆使して予定柄細胞と予定胞子細胞の存在を明らかにすると共に,細胞の混合によるキメラの作成をはじめておこなった (Bonner, 1957, 1959; Bonner and Adams, 1958).

その後,移植技術の発展 や顕微鏡技術・画像解析の発達と共に,beta-galactosidaseや green fluorescent proteinをレポーターとして用いることで,より限定した細胞の標識や正確な同定が可能となり,実験形態学的手法の精度は非常に高いものとなっている.生きている細胞や組織における構造と機能の関係を直接調べる実験形態学は,その幾分古風な響きとは反対に今後さらに重要性を増すと思われる.

実験形態学的手法の中でも最もひろく用いられているのはキメラの作成であろう.キメラの作成が容易なのは細胞性粘菌の非常に重要な特徴といえるが,細胞の振る舞いにおける細胞の自律性と細胞間相互作用の影響をキメラを用いることによって明確に区別することができる.

例えば,ある遺伝子の機能を失った変異株と野生株のキメラにおいてそれぞれの株の細胞の状態を調べることにより,その遺伝子産物の作用の及ぶ範囲がその細胞の内部に限られるのか、あるいは細胞間相互作用にかかわっているのかを知ることができる.また,移動体細胞の突起形成能力とその抑制作用の移動体組織中での分布の例のように,精密な移植実験によってはじめて明らかになる現象も多い.

このような例がいくつか6章2節で取り上げられる.キメラの作製においては,細胞の由来を確認できるように標識する必要がしばしばあり,確実で容易な細胞標識の技術は重要である.この節では,生体染色による細胞標識と、細胞のマイクロインジェクションによる移植を取り上げ,その原理と実際の方法を述べる.


  1. 細胞標識
  2. 移植、マイクロインジェクション
  3. 引用文献
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